公衆衛生委員会

インフルエンザワクチン有効率調査2014~2015年シーズン

「2014/15年シーズンにおけるインフルエンザワクチンの有効率の調査報告」

髙宮光、有泉隆裕、片岡正、門井伸暁、古藤しのぶ、小林博英、鈴木宗雄、
田角喜美雄、津田正晴、中野康伸、西野善泉、藤原芳人、古谷正伸、真下和宏、
山崎徹夫、横田俊一郎

神奈川県予防接種推進協議会

【 はじめに 】
   ここ数年、欧米ではインフルエンザワクチンの有効率をtest-negative case-control studyで調査している。そしてその結果をシーズン早期に発表し、有効率が高い時にはワクチン接種の勧奨を、有効率が低い時には予防投薬の考慮を呼び掛けている。2013/14年シーズンから本邦でもこの方法による有効率の調査報告が散見されるが、調査規定は統一されていないのが現状である。神奈川小児科医会の幹事有志が2012年に立ち上げた神奈川県予防接種推進協議会では迅速診断キットを用いてtest-negative case-control study(迅速診断陽性を症例、陰性を対照とした症例対照研究)を実施したので報告すると共に、接種回数と有効率の関係についても検討を加えた。

インフルエンザワクチン有効率調査


【 対象と方法 】
   対象は2014/15年シーズン(以下今季とする)中に神奈川県内11市の16医療機関(神奈川県予防接種推進協議会会員)をインフルエンザ様疾患で受診し、迅速診断を行った患者(6か月~89歳)で、今季と前季のワクチン接種歴が判明している者とした。集計したのは6,834例であったが、今季の流行はほとんどがA香港型であったので、B型22例および今季と前季のワクチン接種歴が不明もの792例を除くA型3,282例、陰性2,738例の計6,020例を対象とした。両群の接種、未接種の割合は図1の如くであった。

インフルエンザワクチン有効率調査

   臨床症状だけによる診断は除外した。ワクチン接種後2週間以内の発病はCDCの規定同様、未接種として扱った。その他は表1に示す規定に従った。ワクチンの有効率は(1-オッズ比)×100%で算出した。性別、今季ワクチン接種回数を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析で補正した。


【 結果と考察 】
   表2の如く、全体の有効率は38.2%(95%CI31.5-44.2%)だった。CDC(米国疾病予防管理センター)の今季の最終報告である9,329例の有効率は23%(95%CI14-31%)で本調査結果の方が高かった。本邦のワクチン株A/ニューヨーク/39/2012(H3N2)は米国のワクチン株であるA/テキサス/50/2012(H3N2)に比べて卵訓化による抗原変異が少なかったのが影響していることも考えられる。

   1歳未満では接種して発病した例が未接種で発病した例より多かったため、有効率はマイナスとなった。これは例数が少なく、接種率も低かった事とインフルエンザワクチンのプライミング効果が弱いためだと思われる。13~15歳は95%CIがマイナスにかかっているため有効とは言えなかった。その理由に関しては、他の年齢層に比べて例数が少ないものの、それだけでは説明がつかず、今後更なる検討が必要と思われる。

インフルエンザワクチン有効率調査

   1回接種群と2回接種群で、各々前季に接種、未接種に分けて有効率を調べたところ、表3の如く2回接種の方が1回接種より有効率が有意(p値<0.05)に高かったのは10歳未満で前季にワクチンを接種していない場合だけだった。2011/12シーズンから接種量は欧米と同じになったが、接種回数は以前のままである。2回接種は10歳未満で前季にワクチンを接種していない場合でよいと思われる。

インフルエンザワクチン有効率調査

   ケース・コントロールスタディは様々なバイアスの影響を受けやすく、症例数が少ないと更にその影響が強く出やすいため多くの症例数が必要となる。そのため海外ではこの調査の診断にPCRを用いているが、本邦で迅速診断を用いることは有用である。今後は早急に調査対象や規定項目などを全国で統一する必要があると思われる。


   以上の要旨を第47回日本小児感染症学会学術集会(平成27年10月31日~11月1日に福島県で開催)で発表し、学会賞を授賞した。


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