子どもの受動喫煙防止のために
ようやく国のレベルで受動喫煙防止の法制化が検討されるようになりました。「たばこ議連」を中心に低レベルの反発があるものの、厚労省の「健康増進法改正案」は評価される内容です。是非、厚労省の原案が法制化されることを要望します。しかしこの原案にも明確には未成年者についての配慮がありません。
小児科医会としてはとりわけ自らの意思で受動喫煙を回避することが困難であり、保護の必要性が高い子供を守らなければなりません。
以下に現状での問題点とその対策を列記します。
問題点
- 我が国では既にタバコの害の本体、素性(発がん性、依存性など)が明白であるにも関わらず予防医学的な対応が不十分です。依然として出産、子育ての世代の喫煙率が高いままの状況です。
- 受動喫煙について規制力の無い「健康増進法」でしか対応していません。特に、子どもを取り巻く受動喫煙環境の法的整備がなされていません。FCTCの締約国会議での我が国の評価は最低です。
- 消費者を欺くフィルターの仕掛けや依存性を最大利用した添加物の工夫、莫大な宣伝経費による販売戦略さらに、JTの欺瞞的なCSR(企業の社会的責任)活動により、国民はタバコに対する認識を著しく歪めています。
- 我が国のタバコ事情にはJTと財務省間などの利権の構図があり、たばこ事業法、JT法等タバコを保護する法律があります。人命よりも経済を優先、利権を守ろうとするものです。
対策
- 受動喫煙の害についての正しい知識を社会啓発する必要があります。
- 我が国が批准しているFCTC「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」を遵守すべくその目的「タバコの破壊的な影響から現在および将来の世代を守ること」を全うするために、とくに受動喫煙を防止するための立法措置として、責任と罰則を盛り込まねばなりません。
- 一般的に喫煙者と非喫煙者の対立の構図で語られる場合が多いです。JT等は盛んにマナー広告をしています。対立構造で考えれば、マナーを守れば相手との相互関係が良くなるというつもりでしょうか?タバコは喫煙者と非喫煙者のいずれにも医学的な害が及ぶことが問題です。すなわちマナーでは不足、罰則規定のあるルールで対処すべきものです。
- 我が神奈川県は先進的に「受動喫煙防止条例」を制定しました。このうねりを高め、たばこ事業法、JT法等タバコを保護する法律の廃棄とともにオリンピック、パラリンピック開催を好機会として捉え、発展的に受動喫煙防止法の立法への流れを作りたいと思います。国民の皆がタバコの害のみではなく、こうした我が国のタバコ利権や法律の問題にも目を向け、正しい判断ができる民意になるべく、啓発が必要と考えています。
以上
平成29年5月27日
文責;藤原芳人
引用;胎児及び小児を受動喫煙から守るためのガイドライン2016
日本小児禁煙研究会発行
第7回日本小児禁煙研究会
未成年者の受動喫煙防止に関する要望
現在、受動喫煙防止の法制化が検討されていますが、受動喫煙で健康被害を受けているのは大人だけではありません。タバコの煙が子どもたちに気管支喘息、気管支炎、肺炎、中耳炎、乳幼児突然死症候群などを引き起こすことは我が国でもすでに科学的に明らかとなっており、今日も多くの子どもたちが受動喫煙に苦しんでいます。
受動喫煙は低濃度でも有害ですが、乗り物内や喫煙室などの密閉された狭い空間における受動 喫煙では極めて高濃度の副流煙・呼出煙を吸い込むことになるため、その危険性は計り知れません。このため1992年の国際民間航空機関(ICAO)勧告を契機に、公共の空間である航空機内における禁煙が実現しています。さらに、フランスやイギリスなどでは国全体で、オーストラリア、カナダ、アメリカなどでは多くの州で、未成年者が同乗する自動車内での喫煙が法律で禁止されており、 この流れは先進国以外にも拡がりつつあります。自家用車の中はプライベート空間であるとは言え、保護されるべき子どもに対するこれほど強い「他者危害」を放置することはできない、という社会全体の強い意志の表れと言えるでしょう。しかし日本においては、プライベート空間である自家用車内でもチャイルドシートやシートベルトを子どもに装着する義務を運転者に課していながら、 車内の禁煙が義務化されることは今日までありませんでした。
最近は喫煙禁止区域の広がりとともに喫煙所が設置されるようになっていますが、その喫煙場所に子どもを連れて入ることにより、さらに子どもたちが高濃度の受動喫煙にさらされる事態がみられるようになっています。喫煙所や喫煙席に子どもを入れることを禁止することも子どもたちの健康傷被害を防ぐために必要なことではないでしょうか。
2000年5月24日、わが国で「児童虐待の防止等に関する法律」が制定されました。第2条が 定義する児童虐待には受動喫煙と言う言葉はありません。しかし同法の第1条にあるように、「児童の人権を著しく侵害し、その心身の成長及び人格の形成に重大な影響を与えるとともに、我が国における将来の世代の育成にも懸念を及ぼす」ものが児童虐待であるならば、受動喫煙はまさに児童に危害を与える虐待に違いありません。 子どもたちの命と健康は、大人たち皆で守る。子どもたちは、将来に託す私たちの希望、私たちが将来に遺すことができる最高の遺産(レガシー)です。私たちは子どもたちの健康と未来のために活動する専門家として、未成年者が同乗する全ての自動車内における喫煙を禁止すること、ならびに、未成年者を伴っての喫煙所や喫煙席への立ち入りを禁止することをこれからの政策に盛り込んで頂くよう、ここに要望致します。
2017年2月26日
第7回日本小児禁煙研究会大会長 齋藤麗子
NPO法人日本小児禁煙研究会理事長 井埜利博
受動喫煙防止対策を強化する健康増進法改正案
に対する要請
現在、政府において、同法案の策定中であるが、議員連盟として、国民の健康を守るためにいかの方針を検事するよう要請する。
- 受動喫煙防止を徹底するために、飲食店を含む公共的屋内空間の禁煙方針を検事し、分煙や適応除外を避けること
- 実効性が上がるように罰則を設け、執行体制を確立すること
- WHO(世界保健機関)のFCTC(タバコ規制枠組条約)加盟国として、条約の方針に則り、国際基準の規制法とすること
- ラグビーW杯、東京五輪までに施行できるよう、今通常国会に速やかに提出すること
平成29年3月14日
東京オリンピック・パラリンピックに向けて受動喫煙防止法を実現する議員連盟